小説の下書きを書いてみよう(12)

稔はどうしても聞いてみたくなった。
「幸夫さん、僕はどうしても大人の社会がわかりません、良いと思うことがなぜ出来ないのか」「それはね、お金をもうけなきゃいけないからですよ」「やっぱりそうなるんですか?」「すこし話が長くなるけど良いですか?」「はい、かまいません、知りたいです」


幸夫は語り始めた。
「この社会は大人も子供もお金がないと何も出来ないことはわかっているよね?」「それはわかってます」「だからすべての仕事はお金を得るためにします、だから損することは出来ないんです」「はい」


幸夫は続けてコメントを書き始めた。
「産業廃棄物の運搬をしてたときの話です。住宅リフォームや建築会社の廃棄物を山間部の産業廃棄物処分場へ持って行くんですけどね、まだ使える新品や『これを埋めたら土壌汚染になるんじゃないか?』と言うような物まで埋めて土をかぶせるんです。小さな末端の運送屋は分別する経費を浮かせるために運ぶんです」


「しっかり分別する会社もあるんでしょ?」と素子が気になって聞いてみた。
「従業員が多くて経営が安定している企業はそんな事はしないと思いますよ」「それなら安心ね」「問題なのは産業廃棄物の不法投棄です」「テレビでかなり取り上げていましたね、芸能人が不法投棄を近所の人たちと片付けるボランティア活動」「僕も見ましたよ」と稔もコメントを入れた。


幸夫は続けて「自然の立場から見たら不法投棄も産業廃棄物処分場も無くして欲しいと思ったんです。『捨てるならここに捨ててください』という場所を作ったら良いのにってね」「それなら不法投棄が無くなるじゃないですか、私の実家の近所の山間部も不法投棄で悩んでましたよ」と素子が喜んだ。


「それでね、産業廃棄物処分場はそのまま埋められてしまうけど、一箇所に集められた産業廃棄物をすべてリサイクル出来るように大規模リサイクルセンターの建設を考えたんです」「僕学校で習ったことがあります、リサイクルは大切だって、でもいまの社会はやっているんじゃないんですか?」「すべてを回収して分別したり、再利用するにはお金がかかりすぎるんですよ」「そうですよね」


栄治が気になってコメントを書いた「リサイクルが当たり前になってくるといままで作ってきた会社の仕事が減ってくるじゃないですか?」「そうなんです、たくさん作ることで経営が成り立っていたからリサイクルが増えると経営が出来なくなるんです」「それならリサイクルと生産と両立させれば良いじゃないですか」「そうなんですよね、それを簡単に実現してくれるのがお金のない世界なんです。大規模リサイクルセンターの実現が解決してくれるんです」


そこでみんなは納得した。
お金の要る世界では出来なかったことがお金のない世界では簡単なことなんだと。