素敵は素晴らしい敵

ヒツジの子どもはオオカミに食べられないように
オオカミのぬいぐるみを着るように育てられてきた。

オオカミのぬいぐるみを着たヒツジは怖がれないように
オオカミのいない所では
オオカミのぬいぐるみの上にヒツジのぬいぐるみを着た。

オオカミのいる所ではヒツジのぬいぐるみを脱ぎ
オオカミのぬいぐるみを着て遊んだ。
遊びに夢中になっていた時
ぬいぐるみのファスナーが開いてしまった。

「あ!しまった。ばれちゃったかもしれない」
あわててファスナーを閉めようと思った時。
「あれ?君もヒツジ君なの?」
意外な言葉が・・・
「僕もオオカミのぬいぐるみを着てるんだよ」
「そうだったの?」
「ね、(ファスナーを開けながら)ヒツジでしょ?」
「みんな本当の自分を見せていないんだね」
「本当の自分を見せると生きていけないって言ってたよ」

これは「オオカミのぬいぐるみを着たヒツジ」の物語です。
人間が自分らしく生きていけない社会を皮肉ったものです。

「男(おとこ)は敷居を跨(また)げば七人の敵がある」
世間ではそう言われていますよね。
敵は負けてはいけないからぬいぐるみを着ているんですね。
勝ち負けの世界だから勝つことが必要なんです。

敵がぬいぐるみを脱いだらどうなるんでしょう?
素になった敵だから「素敵」になるんですね。
素敵の素は「素晴らしい」という意味だそうです。