お金を知らない子(3)

稔はレストランに近付いて違和感を感じた。
異様な臭いであった。
それは建物の裏側から漂う生ゴミの異臭である。
気になっていたが
「とりあえず何か食べよう」と。


入り口に立つとドアが開かない。
何度かかかとを上げたり下ろしたり。
しばらくすると店員がやって来てドアを開けた。
「このドアは自動ドアじゃないの?」
「停電になったら困るから自動じゃないんだよ」
「山の中だから?」
「そうなんだよ。ところで一人なの?」
「はい」
「食事をするの?」
「はい。お願いします」
「お金は持ってるの?」
「お金って何ですか?」
「え~?」


稔はレストランでは
「食事をお願いします」と言えば食べることが
出来ると思っていた。


「店長」
「何だ」
「この子はお金を持っていないんですけど」
店員はお金を持たない子どもの対応に困っていた。


店長が近付いて
「坊や、お金を払わないで食べるつもりだったの?」
「お金を払うって?」
「どうなってるんだこの子は」


稔は次元が違うことは知っていたけど、お金の話
はまったく知らなかった。
ましてやお金という物が無いと食事が出来ない。
何を話してよいのか稔には思い付かなかった。


信じてもらえるかわからなかったけど稔は本当の
ことを話すことにした。


「あの~。僕はお金のない世界から来たんです」
「え~!何言ってるんだ君は?」
店長と店員は驚いた。
「本当なんです」
これ以上聞いたところでどうにもならないと判断
した店長は「とにかく座りなさい」と稔に言って
店員は稔をテーブルに案内した。