お金を知らない子(10)

その晩は稔はたくさんお話して疲れて熟睡した。
翌日健司と妻の声で目が覚めた。


「大雪じゃないか。今日は山には行けないよ」
「また~?」
「これじゃあ世間も困るんじゃないか?」
「世間より我が家でしょう? 収入激減よ」
「・・・・・」


レストランの経営者の健司は唯一の収入源である
レストランにお客が来ないことが死活問題だった。


稔は目をこすりながら優希と二階から降りてきた。
「おはようございます」
稔は夫婦の困った顔を見ながら聞いてみた。


「どうしたんですか?」
「大雪が降ってるんだよ」
「何か困るんですか?」
「これじゃあレストランにお客が来ないよ」
「ゆっくり休めて良いじゃないですか」
「休んでいたんじゃお金にならないじゃないか」
「あ~。そうでしたね。すみません」
「稔君が誤ることじゃないけどね(笑)」


中一の優希は学校へ行く準備をしていた。
そこへお母さんが
「食事が出来ているから早めに食べて行ってね」


稔は不思議そうに聞いてみた
「こんなに大雪なのに学校へ行くの?」
「そうよ。病気なら休むんだけどね」
「え~。僕たちの学校は休んでも良いよ」
「休むとみんなから遅れると困るからね」
「稔君の学校は教え合うから大丈夫だったね」
健司は思い出したように口を挟んだ。


優希が学校へ行ったあと健司がテレビのスイッチ
を入れてニュースを見入って一言つぶやいた。
「都会の出勤は大変だな~。みんな遅刻だな」
都会の電車は遅れて駅の構内では大混雑だった。


健司はゆっくりの朝食を食べたあとコーヒーを飲
みながら稔に聞いてみた。


「なあ稔君、君の世界ではこんな混雑あるの?」
「いえ、ないですよ」
「どうして混雑しないの?」
「大雪や台風の時は出勤しないんです」
「出勤しなくても大丈夫なの?」
「大丈夫って?」


健司は何が大丈夫なのか返事に困った。
しばらく考えて
「会社員は会社に行って働くことが仕事だよ」
「家に出たら危ないのに出勤するんですか?」
「出勤しないと働いたことにならないしね(笑)」
「大雪も台風も2,3日で収まるでしょ?」
「そう言われればそうだよな~(笑)」


「僕たちの世界では働く時間は少ないですよ」
「普通一日8時間だろ?週休二日制で」
「僕たちの世界では一日4時間ですよ」
「どうしてそうなるの?」
「生活に必要なものを生産して流通させるって、
 学校で経済の勉強しましたよ」
「経済の勉強でもまるっきり違うんだね」
「人生ゲームをやってみて少しわかったんですけ
 どね。お金を使う経済はお金がないと成り立た
 ないんですね」
「ほ~、そこまでわかったんだね。さすが!」


健司はもう少し質問してみた。
「稔君はまだ小学生だから知ってる範囲で教えて
 くれるかな?」
「はい」
「仕事って多いの少ないの?」
「少ないけど多いです」
「何それ?」