お金を知らない子(11)

健司は稔の言葉に唖然とした。
からかっているとは思わないけど何だかなぞなぞ
の問題を投げかけられているような気になった。


「仕事は少ないけど多いってどういうこと?」
健司は改めて聞いてみた。


「やらなければいけない仕事は少ないんですよ」
「やらなければいけない仕事って?」
「生活に不安がないように必要なものを生産して
 流通させることが大切なんだって習いました」
「あ~、そういうことね」
健司は納得した。
そして改めて聞いた。


「たしかに必要なものだけなら労働者は余るね。
 それで労働時間が減るのは納得するんだけど、
 多い仕事って何だろう?」
「それは、みんなが楽しく暮らせるように新しい
 仕事を工夫して作るんです」
「新しい仕事ってどんな仕事?」
「それは冬なら冬のレジャーとか人によって楽し
 み方が違うでしょ?それをみんなで考えるんで
 す。自分の趣味や楽しみ方を一緒に考えること
 が仕事としているんです」
「なるほどね~。遊びや趣味がみんなの暮らしに
 役立つから仕事として成り立つんだね(笑)」


生活に必要な生産と流通が満たされれば、残りの
時間を楽しく生きていけるようにみんなが考える
ことで時間を有効に使う。
健司は労働という概念が違うことに驚いた。


「それで通勤ラッシュというものがないんだね」
「通勤ラッシュって?」
「あ~、さっき言った朝の通勤の混雑だよ」
「そうなんですか」
「会社員って朝出て夕方まで働くのが仕事だから
 毎日出勤することに義務感を感じているんだよ」
「それで給料をもらって生活するんですね」
「お金がないと生きていけないからね」
「お金って大切なんですね」
「お金は便利な道具だと昔から言われてきたけど
 稔君の話を聞いていると情けなくなるよ」


稔は「情けなくなる」という言葉に反応した。
なぜ情けなくなるんだろう?
お金のない世界のほうが便利だと思うけど。
稔は健司に聞いてみた。


「どうして情けなくなるんですか?」
「今までお金を使って助け合うことが素晴らしい
 と思って生きてきたんだけどね。なんだかな~
 って感じなんだよ」
「なんだかな~って?(笑)」
「お金のある世界って物々交換の世界なんだよ」
「物々交換って?」
「昔はね、自分が欲しい物は自分が持っている物
 と交換しないと手に入らないんだ。それを物々
 交換と言っているんだけどね、それでは不便だ
 から物の代わりにお金というものを使って交換
 しているんだよ」
「それで人生ゲームの理由がわかりました」
「どういうふうに?」
「お金が無くなったら借金してでもゲームに参加
 しなくっちゃいけないって」
「そういうことだね(笑)」