お金を知らない子(12)

健司はお金のない世界の仕組みに興味を持つ一方、
今回のように自然災害の対応に興味を示した。


「なあ稔君、大雪が降った時は自宅待機だけど、
 大震災や大洪水の時なんかどうしてるんだ?」
「震災や洪水はあるけど大きな被害はないです」
「大きな被害がないのはどうしてなんだい?」
「それは簡単ですよ。震災や洪水が起きそうな所
 ってあらかじめわかっているでしょ?、だから
 安全な場所で住んでいるんです」


「安全な場所でも危険になることもあるだろ?」
「はい、そういう時はまた場所を変えるんです」
「そんなに自由に変えることは出来るの?」
「はい、できますよ」
「所有権はどうなってるんだ?」
「所有権って?」
「家も土地も自分以外の人に使ってはいけないの」
「あ~それなら使用権というのを習いました」
「使用権って?」
「自分が使っているものは守られるって」
「あ~なるほどね」
「だから誰も使っていない土地や建物は使いたい
 人がいたら自由に使って良いんです。でも管理
 義務はあるって言ってました」


所有権が無くても使用権はある。
たしかに使用権だけでも成り立つに違いない。
健司はなんとなく納得した。


「やっぱり考え方が一歩進んでいる気がするね」
「この世界では自由に移転が出来ないんですね」
「そうなんだよ。せめて公民館に避難するくらい
 だから長期間になれば不自由な生活だよ」
「それは一時的に避難する時ですか?」
「そうだよ」
「僕たちの世界では避難場所は多いですよ」
「どんな所が避難場所になってるの?」
「ホテルでしょ、旅館でしょ、映画館でしょ、ゲ
 ームセンターでしょ、演芸場でしょ・・・」
「チョット待ってよ。こんな場所が避難場所?」


健司は避難場所が娯楽設備であることにびっくり
して思考が止まってしまった。


「なんでこんな所が避難場所になるの?」
「それはね、多くの人が不安にならないようにっ
 て言ってました。それに退屈しないでしょ?」
「そやあそうだけど。まいったな~(笑)」


健司が驚いたのも無理はなく
お金の要る世界ではありえないことであり、行政
が率先してやっても「税金の無駄使い」だと非難
されることは想像出来ることだった。