お金を知らない子(15)

健司は入院中の父親のことが気になった。


「停電だと入院してる親父は大丈夫かな?」
「そうね、病院は停電に対応出来るだろうけど」
「長時間停電だと困るんじゃないかな?」
「チョット行ってみようか」
「そのほうが良いんじゃないの?」


稔は深刻に話し合っている健司夫婦の会話が気に
なって健司に聞いてみた。


「健司さんのお父さんはどんな病気なんですか?」
「糖尿病と肝臓を患っているんだよ」
「重い病気なんですか?」
「いや。来週退院するから大丈夫だよ」
「僕も付いて行って良いですか?」
「良いけど、病院だよ」
「はい、いろんな所を見てみたいんです」
「わかった。じゃあ一緒に行こうか」
「はい」


道路は除雪したので通れるようになっていた。
病院へ向かう途中、健司はお金のない世界の病院
について聞いたみた。


「稔君の世界では治療費も入院費も要らないから
 患者さんは多いんだろうね?」
「いえ、少ないですよ」
「え~、どうして?」
「病気にならないように気を付けているんです」
「どうやって?」
「健康を害するものは作ってはいけないって習い
 ました。それとストレスが溜まらないように仕
 事も自由に変えることが出来るんです」
「なるほどね、お金を稼ぐんじゃないからね」


「誰でも体の調子が悪かったらすぐ病院へ行くん
 です」
「じゃあ患者さんは多いんじゃないか?」
「病気にならないように行くんです(笑)」
「ものは言いようだな(笑)」
「でもほとんどの人は治療しないんです」
「じゃあどうするの?」
「整体やお灸やハリなどに仕分けするんです」
「なんだか予防医療みたいな感じだね」
「はい。病気にならない工夫って言ってました」
「それじゃあ、本当の病人は少ないんだね」
「はい」


話をしている間に病院に着いた。
病院の中では非常用電源を使って明るかった。
二人で病室に行くと4人部屋の窓際のベッドに座
って健司の父親が新聞を読んでいた。


「親父元気そうじゃないの」
「お~来たか。おや?優希じゃないのか」
「あ~、わけあって預かっている子だよ」
「こんにちは、稔といいます」
「はい、こんにちは。君はどこから来たの?」


健司も稔もどうやって説明したら良いのか?
悩んでいたけど簡単にいきさつだけ伝えた。


「俺はよくわからんが(笑)ゆっくりしなさい」
「はい、ありがとうございます」
「ところで健司、老人ホームの広告を見ていたん
 だけどな、今の預金ではかなり足らないじゃな
 いかと思うんだよ」
「老人ホームはまだ先で良いんじゃないの?」
「今のうちから予定を立てておかなくっちゃお金
 の都合があるだろ?」
「それもそうだね」
「ところで稔君、君の世界では老人ホームなんて
 あるのかな?」
「あるけど老人ホームというより、老人世帯専用
 の団地で小さな病院と幼稚園が同じ敷地にある
 んです」
「そりゃあ安心だね。しかも幼児も一緒だし」
「お年寄も元気で遊んでますよ(笑)」