お金を知らない子(16)

健司は父親の気持ちを考えて稔に聞いてみた。
なぜなら健司は父親と同居していないからだ。


「稔君の世界も核家族なの?」
核家族って?」
「結婚したら親と離れて家庭を作るんだよ」
「お爺ちゃんやお婆ちゃんとは別に暮らすの?」
「そうだよ」
「なんだか寂しいですね」
「結婚したら別の巣を作る。鳥みたいだね(笑)」


「僕たちはお爺ちゃんやお婆ちゃんと一緒だよ」
「そういえば昔は大家族だったな~」
「大家族って?」
「稔君たちのように年寄りから赤ちゃんまで同じ
 家で一緒に暮らすことなんだよ」
「どうしてそういうのをしないんですか?」
「夫婦でも喧嘩するんだからお婆ちゃんと嫁さん
 が一緒に暮らすとトラブルが多くなるからね」
「そうなんですか。ほとんどのお家では台所やお
 風呂は二つずつあるんですよ」
「それじゃあお金は・・・・」


健司はお金のない世界の話だったと思い出した。
誰もがストレスのないような生活をするにはどう
すれば良いのかを考えられる世界だと思った。


「稔君はお爺ちゃんと遊んだりするの?」
「はい。お爺ちゃんの体験話を聞くのが好きです」
「そっか~、僕は親父とはあまり話さないな~」
「どうして?」
「親父の自慢話を聞くのはストレスかな?(笑)」
「そうだろうな(笑)」


そこへ父親も会話に参加した。
父親も自慢話が多いのは知っていた。
そしてお爺ちゃんの体験話が好きな理由を聞いた。


「どうして体験話が好きなの?」
「それはね、僕が大人になってどんな仕事が僕に
 向いているのか考えるのがワクワクするんです」
「なるほどね~。お金を稼ぐ必要がないからね」
「それがわかると自分の進路がわかるでしょ?」
「どんな学校へ行ったら良いかってことね」
「そうなんです」
「大家族には良い面が多いんだね」


「とろこで、親父のことは安全だとわかったから
 ひとまず家に帰ろうか」
「はい」
「来週は退院だから迎えに来てくれよ」
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあ」


健司と稔は病院をあとにした。