お金を知らない子(20)

健司は稔の話を聞き終わって現実の生活を考えた。
今はお金の要る世界でなんとか生きていかなくて
はならない。
息子の優希のために働かなくてはいけないし、進
学のために貯金もしなければいけない。
父親の老人ホームへ入るための準備金は要るし、
自分たちの老後のためにもお金を貯めなければ。
頭を抱えながら稔に聞いてみた。


「なあ稔君。小学生の君に聞いたところでどうに
 もなるわけじゃないけどね」
「何ですか?」
「お金の要る世界を稔君のような世界にするには
 どうすれば良いと思う?」
「え~、そんなこと僕にはわからないです」
「だろうね~」


「世の中からいきなりお金を無くすなんて出来な
 いんでしょ?」
「そりゃあダメだよ。混乱すると思うよ」
「それなら世界平和を実現するのはどうです?」
「世界平和なんて実現しないだろう」
「どうしてですか?」
「人類史上で世界平和なんて実現しなかったんだ
 から、簡単に実現できるとは思えないよ」
「でも平和活動はあるんでしょ?」
「そりゃあ国連というのがあって平和活動はやっ
 ているよ」
「国連って?」
「世界中の国がお金を出し合って困っている人た
 ちを助けている団体だよ」


「それを活用すれば良いじゃないですか」
「だから困っている人たちを助けてるって」
「それを大きくするんですよ。困っている人たち
 を助けることも大切だけど誰も困ることのない
 世界を作るんです」
「どうやって?」
「今より人を増やして世界中の技術を使えば良い
 と思うんですけど」
「そりゃあとんでもないお金が要るね(笑)」
「そうでしたね(笑)」


健司はそのときあることをひらめいた。
世界平和が実現すればお金のない世界は実現する。
そうだとしたら
今あるありったけのお金を使えば良いじゃないか。


「稔君。君の考えた作戦は成功するかもしれないよ」
「どう言うことですか?」
「お金のない世界を実現するためにありったけの
 お金を使えば良いじゃないか?」
「そうですね(笑)」


健司は世界平和は実現出来るかもしれない、そし
て稔の世界のようなお金のない世界も実現出来る
可能性を感じていた。