お金を知らない子(18)

家の中に入ると停電は回復していた。
居間のテレビでは国会中継が放送されていた。
大雪に対する対応を議論しているようだった。
国家予算が足りないから除雪作業も行き届かない。
国会中継予算委員会だった。


健司は稔に政治に興味はあるのか聞いてみた。


「なあ稔君」
「はい」
「君たちは政治に興味はあるの?」
「はい、お父さんが僕にも意見を聞きますよ」
「お父さんが子供に意見を聞くの?」
「はい、子供の意見も聞いたほうが良いって」
「どうしてだろう?」
「大人は政治家に提案することになってるんです」
「それは僕たちの世界でも同じだな~(笑)」
「テレビ画面には予算委員会って書いてあるけど
 予算委員会って何ですか?」
「限られた予算でお金の使い方を議論するんだけ
 どね。政策が正しくされているかのチェックで
 もあるんだよ」
「お金の使い方で政策が決まるんですか?」
「早い話がそういうことだろうね」


お金の要る世界ではやるべきことがなかなか出来
ないことに気が付いた。
そして健司に聞いてみた。


「それならやって欲しい政策はなかなか出来ない
 ってことなんですか?」
「そうなんだよ。政策の違う議員を選挙で選ぶこ
 とでやって欲しい政策をやってもらうんだ」
「僕たちも民主主義とか国民主権とか習いました」
「そうだろうね」
「でも、やるべきことはすぐにやっています」
「それがお金の要る社会と唯一の違いなんだね」
「誰もが困ることのないように子供たちの意見も
 聞くようにしているんだって言ってました」
「いいな~。お金の要る社会では困った人を助け
 るシステムなんだよ」
「困ったら助けるのは当たり前ですもんね」
「でも、お金がなくて困ってる人は多いんだけどね」
「複雑な社会なんですね」


「で、子供の意見を聞いた大人はどうするの?」
「地区の議員さんに提案書を出すんです」
「それで?」
「議員さんが似たような内容の提案を一つにして
 国会で議論して急ぐことと急がないことに分類
 してから実行するって習いました」
「なるほどね。予算というものがないから必要と
 思われることはすべて出来るんだね」
「はい。これが国民主権だと言ってました」
「政党なんてあるの?」
「政党って?」
「同じ考え方を持っている議員の集まりだよ」
「そんなの無いですよ」
「どうして?」
「みんな国民のために働いているんでしょ?」
「そう言われてみればそうだよな~(笑)」


健司は小学6年生から学ぶことが寂しかった。