お金を知らない子(7)

車は店長の自宅の車庫へ静かに入っていった。
そして玄関を開けると


「ただいま~」
「おかえりなさい。あれ?この子は?」
店長の息子の優希(ゆうき)君が出迎えた。
「あ~。稔君だ」
「こんばんは」
「こんばんは。君は何年生?」
「僕は小6です」
「そっか~。僕は中一よろしくね」
「こちらこそよろしくお願します」
「さ、どうぞ」


稔は居間に通された。
そこで稔は店長に質問した。
「まだお名前聞いていなかったんですけど」
「そうだね(笑)僕は大空健司よろしくね」
「僕は希望稔です。よろしくお願いします」
「お母さん。お風呂沸いてる?」
「沸いてるわよ」
「稔君、優希と一緒にお風呂にはいっておいで」
「はい」


稔と優希がお風呂から上がると食事の準備が整っ
ていた。
「さあ。一緒に晩ご飯を食べよう」
「ありがとうござます。美味しそうだ」


店長は、美味しく食べながらさっきまでの経緯を
妻と子供に説明をした。
妻は半信半疑ではあったが素直な稔を見て疑いの
気持ちは薄らいでいた。
夕食が済み店長がお風呂に入っている間稔と優希
は人生ゲームをすることになった。
それは
お金のことを稔に理解してもらうことだった。


「人生ゲームっておもしろそうだね」
「うん。おもしろいよ」
「これ、な~に?」
「これがお金なんだよ。でもおもちゃだけどね」
「ゲームのときだけ使うお金なんだね?」
「そうだよ。じゃあ始めるよ」
「ゲーム版の中にいろいろ書いてあるんだね」
「そうだよ。人生っていろいろお金が要るんだ」
「へ~。怪我とか病気とか入学とか結婚とかい
 ろんなことが書いてある。投資で儲かるとか」
「お金の要る社会はお金がないと何も出来ないん
 だよ。だから働いてお金を稼ぐんだよ」
「それでレストランで食べるのもお金が要るんだね」
「そうだよ」


少しずつ理解した稔はゲームを楽しんでいたが。
何度も怪我や病気をしている所に入ったものだか
ら、ついに手持ちのお金が無くなってしまった。


「お金が無くなったけどゲームセットなの?」
「そうじゃないよ。借金をするんだよ」
「借金って?」
「銀行からお金を借りて、あとから利息と一緒に
 お金を返すんだよ」
「借金しないとゲームが出来ないの?」
「それが人生ゲームなんだよ」
「生きることと遊びと同じなんだね」
「お金がないと生きていけない社会だからね」
「なんだかお金の要る世界って辛そう」


稔はお金のない世界のほうが楽しく生きていける
と真剣に思った。