お金を知らない子(9)

優希は稔に学校について質問してみた。


「稔君の学校は楽しいの?」
「うん。楽しいよ」
「僕は行きたくない時もあるんだよ」
「どうして行きたくないの?」
「勉強についていけなかったり・・・」
「それと?」
「仲間はずれにあったりね」
「そうなの?」


「だからね、学校が楽しいってすごいなって」
「僕たちの学校はみんなが教え合うんだよ」
「先生が教えるんじゃないの?」
「先生だけではみんなに教えられないでしょ?」
「そう言われればそうだけど」
「だからね、わかった人がわからない人に教える
 の。時々上級生と一緒に勉強することもあるよ」
「上級生と下級生が同じ教室で?」
「そうだよ。上級生は教えることを学ぶんです」
「そっか~。本当に理解しないと教えることが出
 来ないんだね。伝えることも学べるんだね」
「だから勉強するのが楽しくなるんだよ」


「それならいじめも無いんじゃないかな?」
「いじめって?」
「人に嫌がることをするんだよ」
「僕たちは小さい頃から『人が喜ぶことをしよう』
 って習ったよ」
「僕たちは『人様に迷惑をかけてはいけません』
 って習ったよ」
「『してはいけません』と『しましょう』と真反
 対だね。でも同じことのような気がする」
「迷惑をかけてはいけないと思うから話しかけな
 いようにすることは多いね」
「そうなの?」


優希はこの会話でお金のない世界をイメージした。


「小さい頃から人の喜びをしようって言ったよね」
「うん」
「今思い出したんだけどね僕も小さい頃お父さん
 やお母さんのお手伝いをしたくてね、喜んでく
 れる笑顔を見るのが嬉しかったよ」
「僕たちもそれを大切にしようと習ったよ」
「やっぱりね。ご褒美はお金じゃないんだね」
「自分が役に立つと思ったらすっごく嬉しいね」


子どもたちが通う学校での助け合いの学びは
社会に出てからも充分活かされる教育であった。