お金を知らない子(8)

優希は稔に聞いたみたくなった。
「稔君はどんな遊びをしてるの?」
「もちろん人生ゲームはないよ。外遊びが多いよ」
「外で何して遊ぶの?」
「冒険旅行かな?」
「冒険旅行?」


あまりにも思いがけない答えが返って来たので、
優希はますます聞いてみたくなった。


「街の中でも冒険できるの?」
「うん。できるよ」
「どんな冒険するの?」
「学校で習った仕事の種類を見て回ったり、大人
 がどんな所で遊んでいるのか見るの」
「入ってはいけない所もあるんだろ?」
「もちろんそういう所へは行かないよ」
「今までどんな所がおもしろかったの?」
「楽器を作る所とかおもちゃの工場とかね」
「いいな~、僕も行ってみたいな~」
「この世界も行けるんじゃないの?」
「そんなこと考えたことないんだけど(笑)」


「冒険するのが楽しいのは自由に行けるからね」
「そっか~、お金がなくても良いからね」
「バスも電車もレストランもホテルも空いていれ
 ばいつでも自由に使えるから大丈夫だよ」
「それって、親が心配しないの?」
「だからこのスマホを持っているんだよ」
「何それ?」
「携帯電話だけど位置情報がわかるんだよ」
「僕たちは携帯電話しか持っていないよ」
「そっか~まだなんだね」


「じゃあ家の中にいるより外のほうが楽しいね」
「うん。そうだよ」
「じゃあ遠くまで冒険できるね?」
「夏休みなんか友だちと一緒に旅に出るの」
「いいな~」
「途中で『乗せてやろう』ってタクシーの運転手
 さんが言ってくれたり、『何か食べて行きなさ
 い』って知らないおばちゃんに言われたりね」
「いいな~」


それを聞いた優希は一つの疑問を見つけて聞いた。


「誘拐とか犯罪は心配ないの?」
「誘拐ってな~に?」
「子どもをさらって行くの」
「何のために誘拐するの?」
「身代金目当てで・・・あ!そうか」


お金のない世界であることに気が付いた優希は身
代金という言葉は存在しないと思った。
優希はますますお金のない世界に興味を持った。